辻真先氏が受賞「自分の代表作は次の自分の作品」

記者会見に出席した辻真先氏(左)と光文文化財団理事長で光文社代表取締役社長の武田真士男氏

87歳作家生活47年目「自分は”自己中”の塊」

光文文化財団主催「第23回日本ミステリー文学大賞」がこのほど決定し、作家の辻真先(つじ・まさき)氏(87)が受賞した。元NHKプロデューサーでアニメーションの脚本なども執筆し「鉄腕アトム」から「名探偵コナン」まで多くのヒット作を手掛けた。同新人賞は城戸舞殊(きど・まこと)氏(29)の「暗黒残酷監獄」が選ばれた。贈呈式は3月23日に都内で行われる。

ミステリー文学の発展に寄与した作家や評論家に贈られる「日本ミステリー文学大賞」に選ばれた辻氏は「本当にありがとうございます。ありがたいとは〝有り難い〟と書く。こういった有り難い機会をいただき、お礼申し上げる以外ございません」と喜びを語った。

87歳と高齢だが「書く=自分の過去をさらけ出すこと。自分の場合は戦争。1945年8月15日の午前と午後で大人の言うことが変わった。大人がどういうウソをついたかを見た。大人というのは信用できないなと思った」と執筆の原動力を明かした。 作家生活47年目に入っても創作意欲は衰えない。「戦前戦中だった子供のころは見たい、読みたい、聞きたいものがなかった。古書店も新書の書店も、図書館の本も全て読み切ってしまったので、自分が読みたいものは自分が書くしかないと思った。自分は〝自己中〟の塊で、自分のために書いている。自分の作品の一番の読者は自分だ」と言い切った。

72年「仮題・中学殺人事件」で本格的に小説デビュー。読んでいる当事者が犯人という設定は読者を驚かせた。76年「盗作・高校殺人事件」77年「改訂・受験殺人事件」と続く3部作で試みた「牧薩次・可能キリコ」コンビによる「大仕掛け」は80~90年代の「本格ミステリ・ムーブメント」への先駆けとなった。

長く書き続けるコツ次はもっといいもの

長く書き続けるコツを問われ「何を書いてもちょっとずつ足りない。満腹になったらおしまいだと思っている。書いているときはバットを振り切ったつもりでも、書き上げてみると足りないな、次はもっと(いいものを書いて)やりたいと感じる。〝自分の代表作は次の自分の作品である〟という気持ちでやっている」と語った。

草創期からアニメの現場に携わってきたこともあり、最近のアニメ、ライトノベルもしっかりチェック。ゾンビランドサガを「怪作」と評価し、ヴィンランド・サガを「アクションだけでなく会話劇も逃げずに書ききっている大河ドラマだ」と評価した。 今後について「書きたいことがたくさんある。次で書ききってやろう、次はホームランだと思って書いていても、せいぜい二塁打」とジョークを飛ばし「細く長くやっている自分はケチなのかな」と笑った。

 

日本ミステリー文学大賞の歴代受賞者

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