第48回スポーツニッポンフォーラム

第48回スポーツニッポンフォーラム

スポーツの現場が乱れている ~改善のためのガバナンスを考える~

自身の成功体験を押しつけてはいないか 指導者のアップデートが必要

スポーツ振興支援と国民の体力づくりを考える異業種交流勉強会「第48回スポーツニッポンフォーラム」が20日、東京都千代田区のKKRホテル東京で開催され、約220人が参加した。「スポーツの現場が乱れている~改善のためのガバナンスを考える~」がシンポジウムのテーマ。スポーツジャーナリストの二宮清純氏(59)、弁護士で東大理事、Bリーグ理事、スポーツ庁スポーツ審議会委員の境田正樹氏(55)、元バレーボール女子日本代表の大山加奈さん(34)がパネリストとして登壇し、約1時間にわたって活発な意見が交わされた。

大相撲問題がきっかけ スポーツ基本法を作成

二宮 今日は大山加奈さん、境田正樹弁護士という最強の布陣でお届けしたいと思います。大山さんは日本を代表するアタッカーです。今回はぜひ現場の声を直にお聞きできればと思っています。境田さんは私の10数年来の盟友で、何か法的な根拠が必要な時はアドバイスをいただいています。さて、昨年はスポーツ界の不祥事が数多くありました。そのガバナンスをどうするのか。これが本日のテーマです。まずはスポーツ界における法整備の責任者で、ガバナンスコードづくりに尽力されている境田さんにお聞きします。

境田 去年はレスリング、体操、ボクシングの問題をはじめスポーツ界で不祥事が相次ぎました。昨年10月からスポーツ議員連盟でも議論がなされ、私がアドバイザーリポートの座長として意見をまとめました。2月にはスポーツ審議会のもとにスポーツインテグリティ部会というものが開かれ、大山さんも一緒に委員を務めています。現在、スポーツ団体が順守すべきガバナンスコードを作ろうと検討を進めています。実は二宮さんと知り合った2007年頃にも大相撲の問題などが起こりました。そこでスポーツ基本法を作ろうという動きの中で、スポーツ団体のガバナンスが重要であると当時から議論を重ねて、11年にスポーツ基本法の中で「スポーツ団体の努力」という条文を作りました。ところが、その後もスポーツ団体の不祥事が絶えない。実際にスポーツ団体が順守すべきガイドラインを国が示さないと良くならないということで、ガイドラインを作っているところです。

二宮 大山さんは現役時代、何かと理不尽な指導も受けたのではないかと推測しています。バレーボールの指導者の中には「オレについてこい」みたいな人もいましたが、実態はいかがでしたか?

大山 私はバレーボールの強豪校でプレーしてきましたが、皆さんも女子バレーというと二宮さんがお話ししたような監督をイメージされるかと思います。でも、私の高校(下北沢成徳)時代の恩師(小川良樹監督)は真逆な人で、まず「監督は黒子でいい」「選手の邪魔をしない」「選手の成長を手助けする」ことが役割というコンセプトで指導してくださいました。バレーを好きなまま、嫌いにさせずに卒業してもらう。それが柱にありました。先を見据えた指導で、卒業後に花が開けばいい。高校時代は種をまく時期。私たちに口を出すこともほとんどなかったです。言いたいことがあれば、1つか2つしか言わない。考える力を身につけさせてくれる指導ですね。荒木絵里香選手(トヨタ車体)や木村沙織選手(元東レ)、黒後愛選手(東レ)なども同じ高校の出身です。罰を与える指導者、例えば何本レシーブが上がらなかったら練習が終わらないとか、ラントレーニングで何秒以内に走れなければもう1周とか、そういう指導をする先生が多いのは事実です。でも、私の高校時代は全くありませんでした。罰を受けたくないとか、怒られたくないという状況では高いモチベーションを継続することができません。うまくなりたい、強くなりたいという気持ちこそがモチベーションを長く持続させる要因だと思います。

スポーツジャーナリストの二宮清純氏

全日本に入り変わった 怒られないようプレー

二宮 全日本の時はいかがでしたか?

大山 自分もうまくなりたい、強くなりたいと思っていたし、監督からも五輪に連れていってあげたい、うまくしてやりたいという気持ちは伝わってきました。でも、精神的に追い込まれる練習が多かった。私の場合は「うまくなりたい」という気持ちよりも「怒られないようにしたい」「ミスをしてはいけない」という思考に変わってしまう時期がありました。私はレシーブが下手というレッテルを貼られ、自信をなくしたこともありました。

二宮 褒められることは?

大山 正直、あまりなかったですね。

二宮 そうなると怒られないようにしようと…。逆にプレーが小さくなってしまって、大山さんの長所が消されてしまいますよね。

大山 そうですね。

二宮 野球の筒香嘉智選手(DeNA)が本(「空に向かってかっ飛ばせ!」文芸春秋)を出しました。その中で、少年野球の現場で見られる指導についてこんなことを書いています。「勝つためには、どうしても監督は選手を自分の言う通りに動く駒として育てようとします。その指導に従わなければ監督や親から怒られるので、選手も大人たちの顔色を見てプレーすることになり、自分で答えを見つけ出そうとしなくなります」。これは大山さんが話された状況とかなり似ていますね。

大山 実際、監督の顔色を伺いながらプレーしていましたね。

二宮 私の大好きな評論家に渡辺京二さんという方がいます。その著書「逝きし世の面影」(平凡社ライブラリー)には、幕末から明治にかけて日本を訪れた外国人の見聞記や論文が詳しく記されています。(※いくつかの文章を紹介した上で)これを読む限り、外国人が見た日本に体罰は存在しなかったことが分かります。では、いつから体罰が始まったのか。恐らく、明治時代になって富国強兵の下で強い兵隊を作らなければならない、という辺りからです。

境田 なるほど。

二宮 ただ、92年バルセロナ五輪で銀メダルを獲得した柔道の溝口紀子さんと対談した時、こんな話を聞きました。明治時代の講道館について「嘉納治五郎は教育者なので、体罰などは全然ありませんでした。柔道は殴らなくても、強く投げたりすることもできるので体罰は必要ない」と明言しています。ではいつから始まったのか。以前、対談した奈良女子大の山本德郎先生は、大正14年に陸軍現役将校学校配属令というものが公布され、中等教育機関に軍人が配属されたことを話してくれました。その軍人が将校の場合は殴るのを見たことがないけど、下士官あがりの人は殴っていたそうです。つまり人間の差別や序列が原因だったのではないか、と。昔から体罰が伝統としてあったのではなく、富国強兵の時代にストレスのたまった人たちが弱い者いじめをしていた。正確には分かりませんが、文献を読む限りその辺りから始まったのではないかと思われます。日体大の松浪健四郎理事長の話が毎日新聞(19日付朝刊)に載っていたのを紹介しますと「日体大の前身、日本体育会は1891年(明24)創立で、戦前までは富国強兵策、強い兵隊を作るという方針でした。(中略)軍事協力の最先端にいた結果、学徒動員で400人弱が帰らぬ人となりました。その慰霊碑が学内に建っています。しかし戦後は新しい私立大学としてスタートを切りました。〝スポーツを基軸に国際平和に寄与する〟という使命を携えた大学として五輪選手の強化に乗り出し、約400人の五輪選手を育て、39個の金メダルを獲得しています」。要はもう変わったんだ。そう言っているわけです。にもかかわらず、スポーツの世界ではいまだに体罰が後を絶たない。どこに原因があるのでしょうか?

大山 問題のある指導者は自分が受けてきた指導しか知らない、アップデートされていないところに原因があると思います。指導者はその対象者にいいものを提供しなければならない。勉強することが必須なのに、そうしていない指導者がまだまだ日本には多い気がします。

元バレーボール女子日本代表 大山加奈さん

記事に「愛の鉄拳制裁」 メディア側にも責任が

二宮 私たちメディア側にも責任がないとは言えません。強くなるためには限界を超えることが当たり前と思っていた部分がありました。昔の記事を読むと「愛の鉄拳制裁」とかね。今だったらアウトですよ。選手も自分のために良かれと思ってやってくれている。ある意味〝共犯関係〟にありました。ここにきて、それは違うという声が上がり始めた。ただ、女子体操で叩かれた選手が「私のためを思ってやってくれた」と発言しました。

境田 選手は代表に選ばれたいという気持ちを持っていると、本当の自分を殺す傾向があります。13年に女子柔道のトップ選手15人が、連名で監督とコーチの暴力とパワハラを告発したことがありましたが、その声は本当に悲痛でした。大阪の市立高校で男子バスケットボール部員が自殺した事件では、死を選ばざるを得ないところまで追い込まれていた。強豪校の主将で、いい大学にも行きたい。ここで外されたら自分は終わり。そんな重圧を背負いながら体罰を受けていました。そういう選手を思えば、指導者は絶対に暴力や体罰に及んではいけない。それを社会のコンセンサスにしていかなければいけません。

二宮 アスリートにとって、五輪や世界選手権への出場は大きな目標です。自分が選ばれるためには我慢しなければいけない、文句を言ってはいけない。結果的にはそうなってきますよね。

大山 バレーの場合、記録やタイムみたいな明確な選考基準がありません。監督に気に入られないと選手として選んでもらえない。辛いとか苦しいと言えば、さらに厳しい指導が待っている。そんな思考に陥って、監督に意見をしたり外に向けてSOSを出したりできませんでした。

二宮 日本の場合、強化委員長がクラブの代表や大学の監督を兼ねている場合が少なくない。ほかに誰もいない、私がやらなくて誰がやると。責任感はいいけど、この構造自体に欠陥はなかったのか。つまり利益相反の疑いです。

境田 バスケットボールやサッカーみたいに比較的大きな団体は、会長や専務理事など有給で雇用され職務に専念しています。しかし、ほとんどの団体はボランティアです。無償でやっている人たちが協会の中心にいるわけです。そうなると、ほかで食べていかなければならない。兼務しているのが実態ですね。

東大理事、弁護士の境田正樹氏

アスリートファーストも 今まだ残る指導者が「上」

二宮 近年、アスリートファーストという言葉が声高に叫ばれるようになりました。以前は飛行機に乗ると(グレードの高い)前の席に役員が座っていて、選手は後方のエコノミー席ということがよくありました。大山さんの時代はどうでしたか?

大山 アテネ五輪(04年)の時は身長が190㌢以上か、体重が90㌔以上だとビジネスクラスに乗れるという基準がありました。私は187㌢だったのであと3㌢足りませんでした。ドクターや団長、監督などはビジネスで遠征に行って、私たち選手はエコノミーでしたね。

二宮 これから戦わなければいけない選手を前に乗せるべきだと思いますね。名前を伏せますが、五輪前に膝を痛めた選手がいました。エコノミー席だと狭くて膝が痛むので、ある役員の人に「申し訳ないけど席を替わってください。このままでは試合ができません」と訴えたそうです。ところが「100年早い!」と一蹴された。彼は我慢してメダルも獲りましたが、私のインタビューに「あの人を見返してやろうと思った。飛行機に乗っていた時から絶対に負けられない気持ちでした」と答えました。結果的に一つのモチベーションにはなったけど、何か不健全ですよね。アスリートファーストと言いながらも、いまだに監督やコーチが「上」で選手が「下」みたいな風土が残っている。バレーボールの世界はどうですか?

大山 まだまだですね。学生の大会を見ても、監督がベンチに座ったまま足を組んで選手に指示を出している姿が目立っています。タイムアウトの時は、選手を椅子に座らせて監督が立って話せばいいのに…。私はいつもそう思っています。

二宮 指導者はそのジャンルで成功した人が多いですから、どうしても成功体験を押しつけようとする。もちろん、良かれと思ってやっているのでしょうが、昨日の成功は明日の失敗要因になることが少なくない。自身の成功体験が永遠に続くと思い込んでいる節がありますね。

境田 私もバスケットボール協会の理事をやっていますが、名伯楽と言われている人ほど?マークがつく指導をしている気がします。レスリング連盟にしても体操協会にしても、実は民間の団体です。民間だから自由にやっていいという大原則がありつつも、NF(中央競技団体)のトップが問題を起こすと莫大な悪影響を及ぼします。一民間団体というよりも、非常に公的な組織であるわけです。多くの国会議員からもっと国が関与しろ、スポーツ団体は自由だと言っている場合じゃないという声も上がっています。国がしっかりと管理、指導して人事にも介入すべきだという意見も過半数を占めています。他方で、IOC憲章にも書かれている通り、政治とスポーツは分離させなくていけないという大原則もあります。

二宮 ボクシング連盟が問題になった時もそうですが、やはり公益法人に替えていく方向性ですか?

境田 NFの中でもまだ公益を取っていない団体があって、これを義務化すべきという話があります。ただスポーツ団体は公益性だけでなく、アスリートがいて、いろんなステークホルダーが関わっています。スポーツ団体固有のガイドライン作りを目指して、大山さんたちと一緒に検討しているのがガバナンスコードです。

スポーツ本来の役割は 創造性、主体性の育成

二宮 大山さんはいろいろな機会で子供たちにバレーボールを教えていますが、どんな指導を心がけていますか?

大山 とにかくプレーヤーの人生が豊かなものになってほしい。その手助けができるような指導者になりたいですね。一番大事なのは、基本中の基本だけどバレーが楽しいと思ってもらえること。ただ、最近すごく気になるのが過度のあいさつです。やらされているあいさつが本当に気になります。

二宮 具体的には?

大山 全員が一列にキチッと並んで誰かが号令を掛けるあいさつです。それを「あのチームはすばらしいね」という人がいるけど、そういうチームって一人でポツンといる時に誰かが通ってもあいさつできないんです。みんなでそろっていないとできない。そんな指導を受けていたら、大人になった時にどうなってしまうのか心配です。あとは練習中も、一言アドバイスするたびに気をつけの姿勢で「ありがとうございます」って。毎回毎回そうやるんです。時間がもったいない。もっとボールを触ろうよって思います。みんなの気持ちは伝わっているからといつも話すのですが、あれって指導者の自己満足だし、やっぱり指導者が「上」で「教えてやっているんだぞ」、というところからきている気がします。そういうことをなくしていきたいと思っています。

二宮 スポーツは本来、子供の創造性とか主体性を育むものです。今の話を聞くと、同調圧力みたいなものに早い時期からさらされている。これは改めないといけませんね。

大山 もう一つ、教え過ぎないことを意識しています。私が高校時代に受けた指導もそうでしたが、ヒントをあげて考えてもらって、自ら行動したことが結果につながると成功体験になってモチベーションが上がります。そして褒めてあげること。とにかく褒める。監督の顔色を見ながらプレーする選手が多いという話をしましたが、逆に子供たちが「褒めて!褒めて!」みたいな顔でこちらを見ている時があります。その時のキラキラした目は本当にかわいいですよ。選手が「褒めて」みたいな顔でプレーできるような指導者になりたいです。

しつけと称した虐待も 子供を守る制度も早急に

二宮 最近はしつけと称した虐待も問題になっています。千葉の事件は鬼畜の所業。こんな親に懲戒権を持たせておいていいのか。ニュースを見るのもつらいですよ。

境田 懲戒というのは養育とセットですので、親が放置すると子供は行き場がないわけです。子供をうまくサポートする制度を早急に作っていかないといけないですね。

二宮 私は懲戒権をダメ親から取り上げるべきという考えですが、一方で古い考えも残っています。しつけに暴力を伴ってはいけないけど、一体どこまでが許されるのか非常に難しい。言う時は言わなければならない。でも何かあればすぐ動画で撮られたり、お尻を叩いても問題視されるような時代です。会社では上司が部下に対して怒ることにも臆病になっている。この息苦しさって何でしょうね。大山さんのご意見は?

大山 高校の恩師は、私たちの意見を必ず肯定した上で、その後に「こうした方がいいよ」とアドバイスしてくれました。妹が高校生最後の試合を終えてから、何を思ったのか髪を茶色に染めたんです。登校後すぐに呼び出されたので「怒られる」と覚悟したみたいですが、先生は「君の顔立ちにその髪の色はよく似合っている。だけど、君が校則を破ったことで頑張ってきた3年間が台無しになってしまうよ」と諭したそうです。

二宮 学生時代は先生や指導者の影響が大きいですよね。マリナーズでも大活躍した大魔神こと佐々木主浩さんから聞いた話ですが、小学生の時に上級生からいじめられたことがあったと。彼は肩が強かった。何10㍍も先にいたその先輩に石を投げたら、見事に当たって先輩が倒れたそうです。彼は野球を辞めよう、先生に怒られると思っていたら、その先生は「佐々木!お前は肩が強いな。オレも一人ぐらいプロ野球選手を育てたいんだよ。だから野球を続けろ」と言ってくれたそうです。もちろん、石を投げるのはよくないですよ。でも、彼はそれで救われたと話していました。それがなかったら野球を辞めていたかもしれないと。少し昭和っぽいですが、私はこの話を聞いて救われた思いがしました。マニュアル的にこれがダメ、あれがダメというのではなく、指導する側とされる側、教える側と教わる側の信頼関係が失われているのではないか。上下ではなくフラットな関係構築が今後は重要になると思います。

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