バックヤード業務の負担減らして「おもてなし」に専念を

「おもてなし」は日本が誇る文化だが、サービス業は人手不足が長年の課題。宿泊業では、接客からバックヤードまで仕事が複雑で多岐にわたること、業務が属人化しやすく、引き継ぎが困難で時間がかかることなどがネックとなっている。そこで、旅行者と宿泊施設、地域との「まだ、ここにない、出会い」を提供してきたリクルートを取材。宿泊業の課題解決のため、業務効率化や属人化解消を目指し、宿泊施設の価格調整を誰でも簡単にできるようにするシステム「レベニューアシスタント」など工夫を凝らした取り組みを紹介する。

リクルートが18年春から提供し昨年、大幅機能拡充した「レベニューアシスタント」の画面

宿泊施設の持つデータを元に需要を予測

国内企業の業績や生産性の向上のため、「困りごと」の解消に注力するリクルート。旅行事業は宿泊施設・地域の「360°トラベルパートナー」を標ぼうしている。18年春から提供し昨年、大幅機能拡充した「レベニューアシスタント」を通じて、宿泊業の最前線で仕事をする人たちの業務効率化に大きく貢献してきた。

同社の旅行業務支援プロデューサー、長見恭輔氏は「宿泊料金の値付けをするレベニューマネジメント業務の効率化、属人化の解消を目指した商品となっています」と説明する。

リクルート旅行業務支援プロデューサー・長見恭輔氏

普段、部屋など施設の稼働率を上げるための価格設定、レベニューマネジメント業務は宿泊施設によって、経営者やフロント担当など担う人が異なる。また、担当の方はそれぞれ他の業務と平行して行うケースが多い。「価格は、経験や勘、度胸で値付けをしていた。業務を引き継ぐ場合も2、3年をかけていたケースもありました」と長見氏は言う。

そこで担当の方の負担軽減を目的に「レベニューアシスタント」を考案した。サイトコントローラーや宿泊施設の残室・宿泊管理システム「PMS」と連携し、宿泊施設の持つデータと「じゃらんnet」が持つデータを元に宿泊者の需要を予測することで、急な宿泊需要の変化にあわせて最適な売り方が分かる仕組みを新開発。これによって、料金ランクなどの最適な売り方を提案できるようになった。

データを使用した新システムは斬新なもの。売り上げのアップが見込める日や急なキャンセルがあった日など、毎日の変化や予約トレンドをカレンダーの背景色からひと目で確認でき「満室検知」や「予約増減の検知」をメールで通知することが可能。「需要に合わせた売り方が誰でもかんたんにみつかる、わかる、できる」というキャッチフレーズの通り、操作も簡単で幅広い年齢層に向けた内容に仕上がった。

コロナ禍における宿泊施設の急激な変動に対応できるように、直近の需要変動を元にしたトレンド予測などの機能も搭載している。

コロナ禍が去り、安心して旅行を楽しめる日に向けて日々奮闘している宿泊業界

システム開発に向けては、長見氏ら担当者は実際に1~3カ月間、宿泊施設に常駐した。現場で一緒になって業務を体験することで機能の検討と開発を進めるとともに、担当の方にプロトタイプを活用してもらい、改良を重ねた。長見氏も3カ月ホテルに滞在し、予約管理業務を体験。常駐を経て、データに基づいてAIが出した数字をただ参考にしてもらうのではなく、担当者の思考に寄り添ったものにしたいと考えた。

そこで、レベニューマネジャーの思考プロセスを分解し、レベニューマネジャーがこれまで分析に用いていたデータ・思考のみを元にした需要

予測のロジックを提供することで、AIの回答の背景が解釈可能となり、現場が納得感を持って提示価格に変更できるようにした。全ては「おもてなし」のプロの時間を、バックヤード業務に使うのではなく、現場で生かしてもらいたい、という一念から生まれたものだ。

もちろん、システムの利用料金は施設の規模に合わせたシンプルなものにした。200室以下は月額4万円、201~400室は6万円、401室以上は8万円とリーズナブルな設定。実際に「レベニューアシスタント」を導入したことで、売り上げが昨年比120%になった施設もある。長見氏には「価格変更の履歴が分かるので、引き継ぎがしやすい」、「数字を客観的に見ることができ、レベニューマネジメント業務を早く終わらせられるようになった」と喜びの声が寄せられている。

いずれコロナ禍も去り、旅行を楽しめる日が必ずやって来る。長見氏は、これからも宿泊施設をはじめ旅行観光業界で働く人たちが自分たちの理想とする「おもてなし」にできる限り専念できるように活動していく。そしてリクルートは今後、より幅広い業務に、より深くお手伝いできるよう、ゆくゆくはすべての業務で「困りごと」を解決していきたいと語った。

<2月23日スポニチ本誌掲載記事>

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