今日は読者感想、しんのすけです

『無職、ときどきハイボール』を読んで

先日発売されたばかりの酒村ゆっけ氏のエッセイ『無職、ときどきハイボール』を読んだ。
ゆっけ氏はネオ無職・酒テロ物書きYouTuberである。私自身はお酒が飲めないし、食にあまり興味が無いので、友人のゆっけ氏という興味のみで購入。だがこの本、何かを偏愛する人間にはどれも共感の嵐のエピソードだらけだった。

本の構成は、ゆっけ氏自身がサイゼリヤ、ガスト、大阪の西成など、色んなシチュエーションで酒を飲み、何かを食べる瞬間を独特な言い回したっぷりに実況してくれる、そんな本だった。この本は「食べ物」「酒」への興味、関心というより、「食べること」「呑むこと」という体験に価値があり、いつ・誰と・どこで、という環境がまた「食べる」行為自体の価値を変えると説いている。もちろん食べ物や飲み物の味が大切なのは前提として、過程や事後まで、酒を飲むことを人生のイベントとして捉えるということだ。

幸福というのは人それぞれだが、結局いかに最大化できるかは「コンテンツ」ではなく自身にかかってくる。コンテンツ頼みのみだといつまでも幸せは訪れない。それは趣味だけでなく、恋人もそうだ。周りの人がいくらダメだと言っても、お互いが幸せな場合はもう止めることが出来ないし、否定的意見が多くてもその時、当事者は「幸福」になりえる。「幸福」という曖昧な指標は自分でしか証明することはできないと思う。だからこそ、この本は人間誰しもが絶対に毎日行う「食べる」そして、大人の特権「呑む」という日常が、いかに彩りを添えてくれるのかを再確認できるのである。

当たり前にあるモノは、改めて説明されないとありがたみを忘れていくのが常だ。だがその説明が平凡だと、説教じみてしまい逆効果でしかない。ゆっけ氏の軽妙でシニカルでウィットな(?)文体が、新たな価値を読者にしっかりと「酒と食」のありがたみを再確認させる。高尚ではなく、すごく読者に寄り添っていて、なおかつノスタルジーを時々感じさせ、でも一歩先に踏み込んでいる。シンクロ率100%を若干超えてしまっている絶妙な具合の描写や自虐的なエピソードも並ぶが、全てそれが今の自分に繋がっているという「酒」への感謝とや自己肯定もバランスが良く嫌味がない。むしろ好きになる。

私にとっても「映画」とは普通の人にとってはたまに観るもので「映画館」となれば日常というより「年に一回くらい行くデートスポット」の位置づけの人が多いかも知れない。
でも私は毎週何かしらが公開されるワクワク、面白い面白くないだけで一喜一憂し、映画に生かされていることを日々実感する。

こうやって自分が普段摂取することがない「酒」の価値・感覚を「体験」として共感し楽しみを教えてくれるまで描写してくれた酒村ゆっけ氏に、大いなる感謝したい。